安田学園 (1)

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安田学園校舎(Wikipediaより引用)

東京都墨田区に所在する中高一貫校。運営は学校法人安田学園教育会。校名が示す通り、安田財閥創始者安田善次郎が創立した。そのためか、明治安田生命安田不動産など、旧安田財閥の流れを組む企業との人的繋がりが深い。

講師を4年11か月で雇い止め

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総合サポートユニオンによれば、本校の非常勤講師A氏は今年(2019年)2月中旬に「雇い止め」通告を受けた。同氏は2014年4月より本校に勤務しており、通算の勤務年数は4年11か月に達する。

2013年の雇用契約法改正により、有期雇用契約の従業員は更新により通算5年以上雇用されることになった場合、権利として無期雇用契約への転換を申し出ることができる。もちろん、各校の非常勤講師もまた、基本的には年度を跨がない形での有期雇用契約の労働者である。

一般的には、非常勤講師は(もちろん、いわゆる常勤講師も)当該年度の4月1日から年度末の3月31日までの労働契約を各校と結ぶ。従って、A氏側も学校側も、A氏が次年度(2019年度)以降は無期雇用契約を結ぶ権利を有することになることは知っていたはずである。

実際に私立校で非常勤講師として勤務したことのある人間の感覚としては、2018年度の勤務が決まった時点(それはほぼ間違いなく2017年度内)で、A氏は無期雇用契約の権利を有すると理解するのが一般的だと思われる。だから逆に、学校側がA氏を有期雇用契約の教員にしたくなかったのであれば、2017年度いっぱい、つまり4年目で契約満了(≒解雇)とするのが賢明であったはずだ。

厳密な法律論はわからないが、A氏が本校との労働契約を今年度(2018年度)の3月末日まで有しているかぎり、学校側は明確かつ合理的な理由のない、期間途中での一方的な解雇もできないはずである。

年度末間近で「解雇」通告の無慈悲

ちなみに一般論として、私立校では有期契約教職員と次年度の契約を結ぶつもりがない――つまり、契約満了によって「解雇」する――場合、大体10月頃にはその意向を当該教職員に通告することが多いようだ。というのも、解雇対象の教職員も生活がかかっているので、次年度の働き口を探すための猶予を持たせるためである。

だから総合サポートユニオンが報じるように、本当に本校がA氏に初めて「解雇」通告をしたのが今年度(2018年度)の2月中旬だとしたら、約5年間にわたって学校に尽くしてきた労働者にたいして、あまりに無配慮、無慈悲である。A氏には同情の念を禁じ得ない。

安田学園 (2) に続く。

智学館中教

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▲智学館中教の遠景。ウィキペディアより。

 

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茨城県水戸市に所在する完全中高一貫校中等教育学校)。学校法人常磐大学が設置し、系列に大学、高校、短大、幼稚園がある。2008年に開校し、今年(2018年)で開校11年目である。

待遇を計算してみました

賞与月額は夏季2.15か月、冬季2.367か月というので、合計4.517か月である。

学部卒

192,800(円)×{(12+4.517)(か月)}=3,184,478(円)

大学院修了

214,000(円)×{(12+4.517)(か月)}=3,534,638(円)

 

はっきり言って安すぎである。どの大学の出身者を採りたいのだろうか。公立学校と同水準では、優秀な人材はそちらに流れるばかりである。

受験者数が少ない

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育伸社によれば2018年度入試の本校における受験者数は93人、合格者は80人である。なお学則定員は120人である。明らかに定員割れなのである。

いきおい中等教育学校にしてしまったから、高校からの入学者をとることもできない。どんな小学6年生でも6年間で鍛え上げて超難関大学に合格させる自信があったのだろうか。それとも、日立第一(茨城県日立市)、並木中教(同つくば市)、古河中教(同古河市)といった同県内公立校における中高一貫化の尻馬に乗って、無計画に中教学校にしてしまっただけなのではないか。

寡聞にして知らないが、創立当初から中教または完全中高一貫として高い進学実績を挙げられている学校は海陽中教(愛知県蒲郡市、2006年創立)だけではないか――もっとも同校は、トヨタ自動車JR東海といった地元財界から相当のバックアップを受けている。

拙も(完全ではないが、高校募集は少ない)中高一貫校に務めているが、一貫教育を甘く見てはいけない。6年間やっときゃなんとかなるだろう、という話ではないのだ。

完全中高一貫をやめて高校募集をせよ、と一貫校になら言えるのだろう。しかし智学館は中教なので、おいそれと高校募集はできないはずである。中教学校の隘路であろうか。

高田(三重)(2)

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▲高田中高の外観。ウィキペディアより引用。

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三重県津市に所在する中高一貫校

2年前に当ブログが本校を紹介したときには2年目以降の賞与額が4.9か月分(2016年実績)であったが、今回の募集では5.0か月に増額されている(2017年実績)。たとえ0.1か月分であっても、待遇が改善されることはよいことだ。

待遇を計算してみました

1年目

210,000(円)×{(12+1.5)(か月)}=2,835,000(円)

2年目以降(月額は仮の値)

210,000(円)×{(12+5.0)(か月)}=3,570,000(円)

しかし、よくよく考えると、1年目の賞与額1.5か月分って結構安いと思うのだが。いうまでもなく、学部卒初任給の210,000円も安い(三重県ってそんなに物価が低いのか)。

私立校の教員にとって「栄転」とは何か

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▲東大の安田講堂ウィキペディアより。

大学教員の「栄転」

東大経済学部の市村英彦教授アリゾナ大学へ、同学部の加藤賢悟准教授(前任校の広島大ウェブサイトへのリンク)がコーネル大学へ、それぞれ移籍するという。

日本の大学からノーベル経済学賞受賞者は輩出されていない。その事実だけをとってみても、日本が経済学研究の本場ではないことがわかる。日本よりもよい経済学研究の場所が国外にあるのであれば、(能力的、経済的、あるいはその他の面から)可能な人は国外へと渡るのである。

経済学徒ではないので想像で語っているが、恐らく両氏の転職は「栄転」なのだ。東大ですら、ある領域の学者にとっては目指すべき、あるいは安住すべき最高峰ではないのである。

大学院の「恩師」の栄転

卑近な例を。拙がかつて世話になった大学教授がやはり他大へと移籍するという。

(どう世話になったのか:大学を修士で修了せざるを得ず、博士課程へと残れなかったとき、1年間だけ学籍のない拙をモグりで面倒を見てくれたのが、この人物である)

哲学徒である氏は母校を離れる。理由は今後の研究人生を考えたときに、新天地のほうがよいと判断したからのようだ。

現任校も新任校も国立大だから、給与等の待遇面では大差ないだろうと考えられる。やはり決め手は研究環境なのだ。

氏の異動の話を聞いたとき、即座に「栄転だ」と思った。なぜか。現任校の哲学生の大半は大して優秀だとは思えなかったが(自分のことは棚に上げておく)、新任校は哲学研究の伝統もあり、きっと優秀な哲学生もたくさんいるだろうと(根拠はないが!)想像されたからだ。

私立校教員の「栄転」

翻って、我々私立校の教員にとって「栄転」とは何か。

拙が現任校に移るとき、古い友人からは「栄転だね」と言われた。確かに給料も多少は上がったが、それよりも友人が「栄転」と言ったのは、新たに教える生徒の質を見てのことであろう。現任校は前任校よりも進学実績が比べ物にならないほど遥かによい。

そして生徒の質も高ければ、(少なくとも英語科の)教員にもレベルが高い人が多いのは事実なので、そういう環境に置かれることで拙の授業力が磨かれたことは間違いない。

授業者として腕を磨けるところに移ることを「栄転」だと思いたい。教職の世界であれ、それ以外の業界であれ、給料の額だけを見て職場を選ぶことには大義がない、と思いたい。

花咲徳栄高:ブラック勤務の実態

news.nifty.com

上記リンクの魚拓

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 ▲花咲徳栄高の外観。ウィキペディアより。

今夏(2018年)全国高等学校野球選手権大会夏の甲子園)第100回記念大会の北埼玉大会において花咲徳栄高(はなさきとくはる、佐藤栄学園:埼玉県加須市)が優勝し、同地区の代表校に決まった。

同校は昨年の甲子園大会においても埼玉県代表として出場し、同県勢として初優勝を果たしている。

全教職員から1万円を徴収

NEWSポストセブンは同校におけるブラック勤務の実態を報じている。

甲子園大会に出場する野球部を応援するため、同校は全校生を甲子園球場まで連れていく。しかし引率する教員には1円の手当ても出さず、それどころか佐藤栄学園は同学園に勤務する全教職員から賛助金の名目で1万円を徴収するという。

生憎、拙は勤務校の運動部が大きな全国大会に出場するという経験をしたことがないのだが、その是非は別にして、賛助金の徴収はどの学校においてもありそうな話にも聞こえる。

長時間勤務の常態化

同校には卒業単位となる1~6時限のほか、補講の時間として0時限や7~9時限も設定されている。0時限は7時50分に始まり、8時限は17時40分、9時限は18時40分まで行われるという。

以前、当サイトは本校の系列校である埼玉栄が10時限まで授業を行っていることを報じたことがある。それゆえ本校でも夜遅くまで授業を行っていることは全く驚くに値せず、むしろ「本校でもやはりやっていたか」くらいの印象である。

しかしながら、引用元の記事を読むような、教職に関わらない一般の人々にとっては、きっと驚くようなことなのだろう。まああなたがたは教員がボランティアで教職をやっていると思っているに違いない。

そのほか、授業とは無関係の業務(いわゆる校務)も長時間労働も助長するものとして挙げられている。

  • 17時で退勤する司書の代わりを20時まで行う「図書館業務」
  • 広大な校舎の戸締りを行う、1時間がかりの「日直業務」
  • 受験生向けの「学校説明会」:学校主催、塾主催ともにあるので平日夜も土日も業務が入る

公立の事情は知らないが、学校説明会は私立校ならば疎かにはできない業務と言われる。学校によっては常設の専門部署を設けている場合もあれば、全校を挙げて中学校や学習塾回りをさせるところもある――埼玉県の前任校はまさしく後者であった。

なお佐藤栄学園の現理事長である森山憲一氏は、いま日本で最もブラックな学校と言われる日本大学の元理事である。

千葉敬愛学園

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学校法人千葉敬愛学園は傘下に敬愛学園高校(千葉県四街道市)と敬愛学園高校(千葉市稲毛区)の2高校を傘下に持つ。また大学、短期大学、幼稚園も経営している。

「敬愛」という言葉は「敬天愛人」という水戸学の、あるいは西郷隆盛の思想に由来する。折しも今年2018年のNHK大河ドラマ『西郷どん』だが、本学園が乗っかっている様子はない。

 

待遇を計算してみました

給料月額が235,050円、賞与は4.3か月という。

【年額】

235,050(円)×{12+4.3(か月)}=3,831,315(円)

賞与の4.3か月は少ないように思えるが、翌年度以降の任期なし契約になると、増額されるのであろうか。

校長は教育困難校の立て直しの実績

敬愛学園高校の校長である白鳥秀幸氏は2004(平成16)年に千葉県立姉﨑高校長、2008(平成20)年に同幕張総合高校長、2012(平成24)年に市原市教育委員会長を歴任し、2016(平成28)年より現職にある。

白鳥氏の経歴において有名なのは、教育困難校であった姉﨑高を立て直したことである。

 白鳥さんは平成16年に県立姉﨑高等学校校長に就任したが、当時、同校の生徒は金髪や茶髪、喫煙、学力不振、遅刻、退学等の様々な問題を抱えた荒れた学校だったという。同校は県教育委員会から「自己啓発指導重点校」(生徒一人一人が夢を持ち、学習することの楽しさ・大切さ・素晴らしさを再発見できる学校づくり)に指定されていた。

稲毛新聞2018年7月号(2018年7月6日発行)

 

このような人物が公立校から校長として招聘されるということは、同校も少なからず「教育困難」な生徒がいるということだろうか。

何とも地味

千葉敬愛高校にかんしては、目立った話題がなかった。

というか、この2校にかんして目立つ話題がない。ともに中学を持たない高校単独校であり、往々にして県立高校の滑り止めとして使われるがゆえに、中高双方の受験業界においても注目されにくいのだろう。

また著名な部活動も持ってはいない。今年5月には千葉敬愛高ダンス部がテレビで取材されたようだが。

浦和ルーテル学院:青学大の系属校に

www.u-presscenter.jp

学校法人浦和ルーテル学院さいたま市緑区)と学校法人青山学院は協定を結び、来年(2019年)度より浦和ルーテル学院小・中・高が青山学院大学の「系属校」となることが決まった。ルーテル学院は、2030年度以降に同高校を卒業する生徒は希望すれば全員が青学大に入学することを目指すという。

埼玉県内の受験勢力図は変わるか

浦和ルーテル学院は、正直、地味な学校である。

拙は同学院に地理的に比較的近い学校で働いていたが、開智や埼玉栄、栄東(いずれもさいたま市)が話題に上ることはあっても、同学院が話題になることは、全くと言ってもいいほど、なかった。

その地味さは、恐らく(1)キリスト教系学校に共通する、華美さを避ける傾向(2)全校生徒が小中高合わせても720人と小規模である(3)進学実績も部活動実績もイマイチ、の3点に由来すると考えられる。

同学院は2015年1月にさいたま市浦和区駒場の狭小であった旧校地から比較的広い現在地へと移転しているが、恐らく生徒数の拡大をも目論んでのことではなかったか。青学大の系属校化も同様に、それによって受験者数や入学者数の確保が期待できるからに違いない。

埼玉県内、特に東京都区部に近い南部では(1)大学進学実績の点で抜きん出ている学校(開智や栄東など)(2)有名私大の系列校(慶応志木立教新座、また県北部にある本庄早稲田)はいくらか経営・運営は安泰だろう。このほど浦和ルーテル学院はひとまず(2)のグループに入り、安定して青学大への進学者数を一定数確保すれば、まあ安泰である。しかしこれら2グループのどちらにも属さない学校は、同学院が「いち抜け」したことに危機感を覚えているはずである。

青学大は系属校を増やしている

青学大は2016年に横浜英和女学院中高(現・青山学院横浜英和中高)を系属校にしている。それ以前は青山学院中高が系列にあるだけであった。

もっとも、横浜英和にしても、今回の浦和ルーテル学院にしても、入学者の学力は決して高くはないと思うのだが、そういう生徒を大学に全入させてもよいのだろうか。それとも、浦和ルーテル学院にかんして言えば、2030年度までに高い学力の生徒が集まる学校に変わることを期待しているのだろうか。

このような、系列校を増やすことによる入学者の青田買い、つまり「附属生・系属生のエスカレーター」を一般受験生は嫌う傾向がある。但し、そもそも各大学ともその「一般入試」の枠が小さくなっていくようなので、一般受験入学生のほうがマイノリティになっていくのかもしれないが。

校名に違い

ところで、横浜英和女学院が「青山学院横浜英和」に校名変更したのにたいし、浦和ルーテル学院は「青山学院大学系属浦和ルーテル学院」へと校名変更する。

その違いは何か、そもそも長い名前がますます長ったらしくなるなと思ったのだが、恐らく理由は、残す名前が「学院」を含んでいるからだろう。まあ早晩「青学浦和」とでも略されて呼ばれるようになるだろう。

 

(7月28日(土)追記インターエデュに次のような投稿を発見した。

うーん、

ルーテル学院ルター派

青山学院はメソジスト派ですよね…

ちょっと節操がない感じがしますね。 なんでもありの日本だとそんなに気にならないのかしら。

少人数とはいえ、人が集まらないから起死回生の策なんでしょうけど。

キリスト教系の学校が求人をする場合には、採用の条件として「本校のキリスト教教育に理解がある者」という但し書きが付けるのが常である。その割には、青山学院とルーテル学院は宗派を無視するという無節操をいとも容易く冒すわけである。

ちなみに、横浜英和はメソジスト派に属すようだ(コチラを参照)。