校名に見る私立校の思惑 (1) ――東海大学附属校 校名の変遷から

センバツ(第89回選抜高等学校野球大会)、3月28日(火)の東海大福岡早稲田実業の試合をテレビで見ていた。合間にアナウンサーが視聴者からの応援メッセージを読み上げた。「東海大福岡を応援しています。東海大五高時代の卒業生です。」

東海大福岡

言われてみれば聞いたことのない学校名であった。もっとも、東海大は日本中いたるところに附属校やら関係校やらを持っているので、拙に馴染みのない東海大ナニガシ高があってもおかしくなかった。

けれども五高が福岡に校名変更したという。

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調べてみると、近年、東海大附属のナンバースクール(一高、二高…)は揃って所在地名を冠した校名に変更している。付属望洋も同様に付属市原望洋に変わっている。

元々、静岡(旧・一高)は翔洋、市原は望洋というように、どういう意味が込められているのかよくわからないキラキラネームを背負っていた――熊本(旧・二高)にはせっかく変わったシワシワ校名に星翔というキラキラ要素もついでについてはいるが。

校名変更について、付属諏訪(旧・三高)は次のように言っている(原文ママ、強調は引用者)。

新校名である「東海大学付属諏訪高等学校」の「諏訪」には、本校が所在する長野県諏訪地域において、さらに地域根ざし、地域から愛される学校になる、という本校の強い決意が込められております。

東海大学付属第三高等学校:ニュース

同じく付属札幌(旧・四高)は次のように言う(強調は引用者)。

地域に根ざした「オンリーワン」の新たな学校をめざす改革の象徴として、校名変更を行うことが学校法人東海大学定例理事会において決定されました。

http://www.tokaisapporo.ed.jp/uploads/hs_news/232.pdf

東海大学の付属校は所在地回帰を考えているようである。

これは極めて興味深い現象である。というのも、最近の私立校は所在地名を含んだ旧名を捨て、見栄えだけはいいキラキラネームを選んできているからである。新設校でも同様の傾向だ。

当ブログでも紹介したことのある啓新慶進青翔開智開智開智開明翔凛と聞いて、それらがどこにあるかすぐにわかる人は相当の私立校中高マニアではないか。

埼玉県内において、開智と栄東が東大合格者数を伸ばしている理由として、岡林秀明は、校名から「埼玉」を除いたことにあるとみる。曰く、

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熱闘!東大合格市場あの超進学校がやっていること - 岡林秀明 - Google ブックス, p.228.

校名から地名を外すことによって、県域、市域などの地域を越えた生徒募集が可能になる、という発想はわからなくもない。恐らく、栄東や開智の躍進の理由の一部には、優秀な生徒が埼玉県内のみならず東京や千葉など他都県からも集まってきていることもあるだろう。実際のところ特別な事情がなければ、東京の受験生が埼玉とついた学校に毎日通いたいとは思わないだろう。

開智や栄東にはその系列校に大学はあるけれども、その大学を看板にして生徒集めをしてはいない。他方、東海大学という大組織は地域に根差して生徒募集をしようとしている――思えば日本大学の各附属校、係属校は(特別附属の一高、二高、三高と「日大日吉」、豊山など一部の正附属校を除けば)そもそもすでに地名を冠している。

地域を捨てる小組織と、地域に回帰する大組織、それぞれの意図が容易に透けて見えてくる。すなわち、東大を始めとする難関大に合格する高い学力を持った生徒を集めたい小さな私立校と、系列の大学に黙って上がってくれさえすればよい(ゆえに高い学力はいらない)生徒を集めたい附属校、である。